歌舞伎NEXT 朧の森に棲む鬼(いっかいめ)
歌舞伎NEXT 朧の森に棲む鬼(いっかいめ)
新橋演舞場 2024.11.30 〜 12.26 予定
元々は劇団☆新感線の演劇で、染五郎時代の幸四郎が主演していたもの。
新感線が何年か松竹と組んで新橋演舞場に馴染んだ頃の作品。
自分は映像でだけ見ています。
今回は阿弖流為以来の「歌舞伎NEXT」として仕立て直されました。
幸四郎のライと松也のライのダブルキャストです。
幸四郎、松也とも見てきました。
筋をべったり書いたりはしませんが、基本ネタバレしかないので危険を感じた方はそっと閉じてください。
今回イヤホンガイドは用意されておりません。歌舞伎としての解説は要らないということ。基本的にもとの演劇と変わってないです。
阿弖流為のときは、歌舞伎だとこうなるかぁ、という構成の変更があったんですが、今回は元とほとんど印象が変わりませんでした。
忘れないうちに1回目の印象を書いておきます。
2024.12.8 1回目 昼幸四郎、夜松也
幸四郎ライで見終わって、先に書いたように、劇団新感線版と印象が同じだなと思ったんですよ。
幕切れに引っ込み風の宙乗り(全方位見得大会)があるので、仁木弾正か公家悪のような風情で終わるところは違うんですが、でもディテールが違っても筋はかわらず、想定外だーってところはそんなになかった。確かこうなるんだよねって思った通りに進みました。シキブも控えめにかっぱふみふみしてたし。
割合違ったのは右近のキンタでした。本人の"パワー弟感"(今作った言葉)が前に出ていたなあ。
幸四郎ライは昔ほどべらんめぇではなかった。当たり前だけど今の幸四郎。でもやっぱかっこよかったな。花道を見たら序盤から汗だくでさ。
で、見終わって同日に松也ライも見る予定だったので、ああ、同じのをもう一本見るのは体力きついなあと思いながら17時を迎えまして。始まったら、え?、違う…ってなったのがもう冒頭から。
この話、ライが落ち武者の装備を狩ってるところから始まります。(新感線版ではここでライが生粋の嘘つきなだけでなく、あーんなことやこーんなことまでしていることが示唆されますが、歌舞伎NEXT版ではそれはなし)
んで、死んでなかった兵士に襲われそうになるところを弟分のキンタが出てきて立ち回りして、自己紹介代わりに見得をしたりします。
幸四郎ライとの組み合わせでは、キンタだけ大げさに時代な歌舞伎風の表現を入れたデモンストレーションに見えました。ドリフで通常の生活の中に歌舞伎が入ってくるギャグあるでしょう?ああいう雰囲気に見えた。
それが松也ライのときは、
こちとらライといえば元染五郎の今幸四郎しか見たことないわけで、松也が出てきた時点でライとは思えない。
あ、松也だ、って思う。
落武者の兜をはいで独り言を言ったりしてると、ここから書きものかなんかの演目が始まりそうな空気が漂います。文七元結とか、らくだとか…服が貧乏だからかそんなものしか思い浮かびませんが、そこで右近のキンタが見得をしてもそれが歌舞伎の続きにみえる。朧の森に至るまでのやりとりも噛み合うべくして噛み合うピースのようで印象が違う。
演出意図がそうなのか、同じ劇団のメシを食ってきたからなのか。
それがずっとライとキンタとの関係性に影を落としていくように思います。
幸四郎ライの前では最初から同じ土俵・同じ空気で生きていないことを、自分だけが知らないキンタ。これは新感線版でもそうだった。
でも松也ライと右近キンタは完全に同じ空気をまとっていたのが、はぐれていくんだ。
そこから生まれる痛みの景色は互いに異なるような気がします。
幸四郎はライを貫き、松也はライになっていく…。
歌舞伎っぽいこととしては、上手の床に太夫と三味線。
洋楽の中にツンツンとナマの三味線が合わさってきたりもします。鳴り物も黒御簾から聞こえる。
あと、ツケはナマで入ります。
元々新感線でもツケっぽい音は入ってますが、いつでも同じ音になるじゃないですか。
今回は付け打ちの方がいて合わせます。
柝もナマでした。前方席だと舞台袖が見えて、ああ人間がいると思いほっとしました。
でも、全体的には新感線。
音楽はもちろん、ショックBGMや、何か台詞を言うと鼓が入るのとか、しゃらんって鈴が鳴るのとか、そのタイミングが新感線。これが歌舞伎にさせないのに大きく貢献(?)してます。あと、立ち回りの刀の効果音がある。写実風の立ち回りでも、歌舞伎では物の飛ぶ音や刀を交わす音はない。全部ツケです。
「朧」ではそこに写実、もしくは概念の音があります。
あと、歌。今年は明治座のバサラオを見てきて、隅っこの席で字幕みえない歌詞わかんねーよ聞こえねーよぉって思ったんですけど、今回は聞こえました。
事前情報で歌があると読んでたので、ライが急に歌いだしたらどうしよ、と思ってたけどそういうのではなかった(笑)
マイクは音量調整があるようです。肉声に聞こえるところもありました。
松也は幸四郎よりも歌舞伎に寄っているんだけれども、それでも空気から歌舞伎になってしまったのは最初だけでした。
FFX歌舞伎では義太夫が入ったらものすごく歌舞伎になってた。
朧は、冷静に数え上げたら相当量の歌舞伎が混ざってると思うんですが、太夫の語りががっつり入っても、挙句に戦物語の所作が始まっても、歌舞伎を入れちゃいましたよ!見て見て!って主張が低くて、気づいたら義太夫まざってたわぁ、っていう状態になります。取り込まれてしまっているというか。
今回混ぜる意図は筋書に書いてありますが、
こんなに歌舞伎のリソースを使いながらできたものがほぼ新感線なのはなんか、こんなに砂糖入れたのに甘くならないねえという気分ではあります。
どっちでもない見たことない第三の何かに化けて欲しかったと言ったら望みすぎですかね。
あと何回か見る予定。
いろいろ(順不同)
剣菱
検非違使(けびいし)の提灯?が"検非違使"って書いてなくて剣菱の紋なのが地味に面白かった
アラドウジ
道化のメイクで、裏では情報屋。
幸四郎さんと組むときの宗之助さんはこういう役が多いですね。阿弖流爲のときは、え〜、あれ宗之助ちゃんだったの?って驚きましたが、慣れました。
酒場の音楽のシーンでは木偶人形を扱っていてお人形がお酌してもらったりしてかわいい。
牢屋でお下品担当の部分は残ってました。(相手が男でもええんかい)
今回ふわっとしただんまりが2回もあって、うちひとつがこの場面です。時間稼ぎとはいえだんまり以外の手段はなかったかしら
シュテン
シュテンは新感線版では女性でしたが、今回は染五郎で、男の役です。同じ顔の朧の森の精霊もつとめています。
精霊がしっくりきていいです。"三人の魔女"に拘らずに男にしちゃったわけだけど神秘的なのは女方に限らないのを証明しましたね。
シュテンは明るい色の長い髪をしていて非常に早い剣捌きを見せる場面があり、いずれは阿弖流為をと思ってしまう。
ただ、倒れるときにマントが足に引っかかってひやっとしました。
Mr.インクレディブルで、エドナ女史が言うじゃないですか「No CAPE!」って。
長いのかなあ。
おクマちゃん
千寿さん今年も美貌を封印した年末飛び道具系キャラ。でも女方だし人間なのでヨシ(?)。
とある台詞は毎日違うらしく、私が見た日は、アンドレイさんとヒロシさんでした。
(美貌を封印してない役もあり)
フエ
菊三呂さんです。キュウちゃんを連れて証言に来る女性。
こんなキラキラ派手でよくしゃべる菊三呂さんはめずらしいかもしれん。
紫色はイメージどおり。
ラジョウの屋台では徳松さんと揃ってライ・キンタをかまっており
音羽屋の乳母揃いで少し嬉しい。
泉水の立ち回り風
現代的なタテをとりいれた新作歌舞伎では高頻度で入る忠臣蔵十一段目風の立ち回りが最後の最後にあります。水がじゃぁじゃぁで泉水どころじゃないんですけど、まつ虫くんが水場でトンボを返っていて最後の最後で応援必至。
今回水は遠めです。
夏の歌舞伎座では幸四郎松也がアホかっていう大水でばっしゃばっしゃやってましたから、清らかでおとなしいものだw
冬だし
イチノミカド
ミカド、いくさに負けたら贔屓の野球チームが負けたみたいな言い方してましたね。
彌十郎さんは新感線版を見ていなかったそうなのですが、初演のときと印象が近く、これは演出がやって見せてくれる系だからですかね。
花道横の数席に口パク機能付き棒付き池の鯉が配られてて、ミカドが花道のよき所にきたらお客様が操作するという見たことない小道具使いがありましたw。
この役をやりたくて席を代わって貰ったらしい人がいてました。いいなあ。わしもやりたい。エサも欲しい
なお、鯉は幕間に回収されてました
シキブ
ミカドの内縁の妻。直接的な下品度は減ってるですけど変な和歌はそのままで、へちゃむくれ、やるんだ…って思った。
新悟くんはほんとなんでも出来るのね。
大きな花柄の衣裳ですが、最後だけ緑の打掛で出てきます。西欧では毒のイメージは緑らしい。
土方歳三
検非違使やってるときの松也ライは土方歳三みたいなんで新選組もいいなあなどと思っていた。
サダミツ
サダミツはいまのところ、幸四郎の勝ち。幸四郎さんはこんなときどう動いたらいいかよく知ってるw
交互キャストの片方がこれって誰が考えたんや(きっと本人)
まってぃーはすごい隈をとってます。あと、顔の中に松助さんがいる、と思った。
(でもこの役、ニンは團蔵さんな気がする。)
キンタ
キンタは正直の象徴みたいな役で、ライは彼のことを道具と言ってるけど、騙したり隠し事をすることがない安心な存在なんだと思います。
衣裳がどんどん変わっていくんですけど、ブルージーンズのイメージからアメリカンな赤青の色使いになったりするの、ヤンキーってことなのかな。
右近のニンのせいでやや利口にみえます。
そこそこ強くて賢くない弟って難しくない?
ツナ
シュテンが男になったのでライに絡む女性の複雑な所を一手に引き受けた感があります。
すごくあっていると思う。
若手の新作参加に対して必ずしも肯定的でない意見を表明してきている(新)時蔵が面白がってやってるようなので結果オーライ。
たまに男に見えるくらいのやり方をしています。
ラジョウを訪れて、説明なしで行動に出る所など惚れ惚れするよね。
だんだんと内面の女性性が見えてくる。
夫の首(のイメージ)を掲げるサロメのようなところが良い絵でした。
マダレ
猿弥さん。出てきた途端に大正解。
こういう人がいてよかったねえ。
朧の森に棲む鬼
中島かずき 作
いのうえひでのり 演出
歌舞伎NEXT
朧の森に棲む鬼(おぼろのもりにすむおに)
ライ/サダミツ 松本 幸四郎(ダブルキャスト)
ライ/サダミツ 尾上 松也(ダブルキャスト)
ツナ 中村 時蔵
シキブ 坂東 新悟
キンタ 尾上 右近
シュテン 市川 染五郎
アラドウジ 澤村 宗之助
ショウゲン 大谷 廣太郎
マダレ 市川 猿弥
ウラベ 片岡 亀蔵
イチノオオキミ 坂東 彌十郎
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