十人十役(の筈が三十人三十役) 2025

歌舞伎

歌舞伎周辺は三大古典や大襲名でだいぶ忙しい年でした
世間は国宝で賑やか

2025年を振り返ると、心に残る演目と、この人のこの役が良かったがなかなかリンクしません
芝居として面白いと思った木挽町のあだ討ちや、泥棒と殿様が出演者たちの役としてその年のいちばんかと言われるとそうでもない
1人が傑出した働きをするのとは違う良さなんでしょう。
新作歌舞伎(戦後からの新作も含めて)の上演が多くなるとそういうことが増えそうですね。

十人十役について
しらたまやさんが例年、年明けに前年の「10本」「10役」をお店や投票で募集されています。
10役は、1役者1役、《幹部/御曹司/部屋子》《名代/名代下/お弟子さん》から各10役(10名)まで選出、というルールになっており、都合20人20役を選ぶことになります。
私もここに投票することを想定して選んでますが
誰が幹部で誰が名題とか部屋子かというあたりがよく分からないので動静表の色で分けてます。(動静表=歌舞伎俳優出演劇場一覧 https://www.kabuki.ne.jp/movement/latest/ )

三大名作の通しがあって登場人物が多く、しかもダブルキャストであれもこれも選びたくなるので、同じものを同じ人でもう一度観たいか度を基準に絞ることにします。
なので、それそんなに良かった??というのが入ってたら、ああ贔屓なのねと思ってください
それ以外に、気持ちを無視しきれないものをさらに10書いておきます。(結局絞れてないんだが投票は上の10個にいれるでよ)
同じ枠内は上演月順に記載

目次

クリーム色と水色の枠

七代目菊五郎 十一段目 服部逸郎(3月 歌舞伎座)

してして仇はで急に忠臣蔵に臨場感が出る面白さ。たったあれだけで全部持っていきましたもんねえ。
馬で出てくる役なら動けるというのも嬉しい
幕切れは仁左衛門の大星との対峙でええもん見さしてもらいましたわ感

萬太郎 十一段目 小林平八郎(3月 歌舞伎座)

意外性の産物。大きくはない小林の鋭い眼差しがかっこよかった。小林萬太郎の異名が生まれてました
完全にシュミで選んでます

坂東亀蔵 無筆の出世 治助(4月歌舞伎座)

歌舞伎座の椅子を取り替えるという珍事で、1回減っちゃった水曜日登板。運良くみることができました。
この嘘みたいな話に対して亀蔵の実直そうなニンが信憑性を与える
これ以上合う人がいるかどうか
これは、前半を坂東亀蔵で、出世後を松緑でやったらぴったりだったのではないか
全然似てないけど

松也 浜松屋 南郷力丸(5月 歌舞伎座)

三日月宗近も平右衛門も良かったけど、私はこれが嬉しかったので。
いい男な南郷。尻上がりにコンビネーションが良くなっていました。年に一度でも世話物が回ってきてほしいけど、そもそも次はいつ歌舞伎に出るのかわからない。ルキーニも良かったけどミュージカルで旅に出るとひと月で終わらないから。
年後半の予定発表を楽しみにします。

種太郎 車引 杉王丸(6月 歌舞伎座)

特筆もの。伸びるときはぐっと伸び、カドカドのきまりもきっちりと、この仕事っぷり。9歳。
以来、大人の杉王丸を見ても、種太郎はあんなに凄かったんだから、大人頑張って!と基準にしてしまう

歌昇 刀剣乱舞東鑑雪魔縁 源実朝(7,8月 新橋演舞場、南座、博多座)

歌昇は白から赤から将軍から泥棒までなんでも回ってきて実に色々な役があって面白かったんですが、すんなりカラーや技が出たのはとうかぶだったんじゃないかな。
陸奥守は勿論いい。これ以上ない配役だったし、ニンに気付かされた気もする。この先含む当たり役が生まれた瞬間を見た気がします。
でも実朝公の芝居を2ヶ月突き詰めて千穐楽に行き着いたその模索に触れるのが面白かったので実朝公を選択。
鎌倉山の雪景色を褒め、独吟の「白雪と同じさだめか分かねども」と流れる中、黙して歩む姿に、この先に待つものが思われたことだったなあ(詠嘆)

梅玉 二段目、九段目 加古川本蔵(9月 新国立劇場)

正月の裏表忠臣蔵の本蔵の時はまさか二段目、九段目が上演されるとは思っておらず。
九段目がこんなに男同士の交流の演目に見えたのは初めてでした。死にそうだけど楽しそうという。二段目も、本蔵の戦はここだったんだと思えるいきいきしたものがあり見られて良かった。

魁春 菅原伝授手習鑑 覚寿(9月 歌舞伎座)

会ったことないけど、たぶん何も補完する必要なくそのままこういう人だと思うっていう覚寿。厳しい母。木像の件で、え?となってるとこはかわいく、その木像をしっかりと持ち上げてあるく矍鑠さもしっくり。
魁春で「ぴったり」と思ったのはもしかすると初めてかも。

仁左衛門 いがみの権太(10月 歌舞伎座)

三代名作すべて、仁左衛門以外がやってもこうはならんのよねという役なのですが、権太がいちばんこうはならんやつだと思う

左近 千本桜 小金吾(10月)

木の実の場で仁左衛門の権太に対して無念に震えるさまに十九という年頃がはまりました。
立ち回りの間の取り方はさすが劇団育ちでしっかりしており、
独りになれば姫のような小金吾。
これも今だけのものでしょう。一つ一つを今見ておきたい人。

クリーム色と水色の捨てきれない枠

時蔵 彦山権現 お園 (1月新国立劇場)

彦山権現…ってこんなにお園が主役だったの?っていう驚きがありました。
酔ったふりあり、鎖鎌の対決あり、女武道とても似合ってました。

勘九郎 六段目 勘平 (3月歌舞伎座)

実を言うと好きな場面ではなくて
しかし凄まじさが突出していて、過去一怖い六段目だった。

壱太郎 木挽町のあだ討ち ほたる (4月歌舞伎座)

舞台裏でなんやかや雑用しながら、女なのか女形なのかわからんような感じで自然なお喋りが印象的。
この演目の品質を強く印象づけたのがこういった日常の描写でした。

八代目菊五郎 弁天娘女男白浪 弁天小僧菊之助(5月歌舞伎座)

七代目と似た顔立ちや所作なのに声が決定的に違って、これが八代目なんだなあって思って見てました。
いま望める最高はこの人の弁天だと思うけれど、これはいずれ本人により更新されるだろうと思う。

團十郎 暫 鎌倉権五郎(6月歌舞伎座)

これを受け継ぐ器が團十郎なんだなという説得力があった
(他のものにも説得力があってほしいが暫になかったら悲劇なのでまずはよし)

錦之助 土屋主税 大高源吾 (6月 鑑賞教室)

殿様が割と理性的な松浦の太鼓みたいな話です
最後に颯爽と本懐を遂げた報告にくる大高源吾
ここ3年くらいで一番かっこいい錦之助を見た気がする

(新)菊之助 二人道成寺 白拍子花子 (10月御園座)

東京よりもにこやかに踊っていてよかったし
振り回され気味だった小道具の扱いも良くなっていた

孝太郎 義経千本桜 大物浦 御乳の人 典侍局(10月歌舞伎座)

立派でした
この場面のいちばんは私には孝太郎でした

種之助 泥棒と若殿 成信(若殿) (巡業)

小説だと地の文に書かれていることが台詞になっているところがあるのですが、
歌舞伎らしからぬ本当の感情が見えるような芝居がよかった
人形岩永も良かったんですけど、人間をとります

松緑 丸橋忠弥 丸橋忠弥 (12月歌舞伎座)

一門を率いて身体を張ることの意味を考えさせる。
芝居がいいと思ったのは四段目の由良之助でした
だけどあれだけの人数を相手に、自分のいのちを預けて安全と正確を必要とする立ち回りを続け、継承していく姿が意味あるものに思えて、これを推します。

番外 片岡亀蔵 鼠小紋春着雛形 辻番与惣兵衛(10月御園座)

良いことをしたつもりの鼠小僧を呼び止めてころしてほしいと頼み、静かに身の上を話す辻番のおじさん。
悪い人?いい人?と一瞬では判別がつかないのです。たぶん権十郎さんだったら八割いい人。でも片亀さんだと六:四くらいで悪か?ここで対決なのか?いやいやなんだかいい人っぽい……いい人だったぁーてなる。
普通にいい人と受け取れば良かったやつだった。
以前は、立場は悪という方が多かったと思うんですよ。
最近はいい方の老け役もあって正月も騙されたんや。(向こうは騙す気はないだろう)
なるほど、菊五郎劇団ではいい方の確率を上げておかねばと思ったのでしたが、
突然の訃報で、この月が最後の舞台になったそうです。
誤報だと思ったよね。こんなことがあるなんて…

緑と白の枠 など

音幸 毛谷村 直方源八 (1月新国立劇場)

お園に転がされてる忍びの者。ぜんぜん相手にされてないのにめげずに向かっていく。カートゥーンのやられ役。トムとジェリーのトム。正月のやつは手数が多くてだいぶやられていた。お疲れ様。
(4月の歌舞伎座はやゑ亮、こんぴらはまつ虫。こんぴら見てない。見たい。)

橋吾 義経千本桜 大詰 川連法眼 (5月神谷町大歌舞伎)

珍しく川連法眼館の狐の一幕の後がついていて、いつもは座ってるだけの老人っぽい川連法眼が、妻と一緒に戦うべく前に出てくるんですよ。
法眼の印象が全然変わる。きびきびと若々しい姿でした。

蝶也 引窓 南与兵衛、新八 引窓 濡髪長五郎  (8月稚魚の会)

稚魚の会の引窓が佳作だったんですわ
この二人が互い違いに噛み合うやりとりが生きていました
新八の濡髪が普通にいい男だった

芝のぶ 野田版研辰の討たれ 芸者金魚 (8月歌舞伎座)

平成の上演時から出演者の世代が入れ替わった中で、亀蔵(からくり人形)と芝のぶは変わらないねと言われてました(のに…)

蔦之助 刀剣乱舞東鑑雪魔縁 源仲章 (7,8月 新橋演舞場、南座、博多座)

“なんかムカつく" “顔はいいのに"のイメージを裏切らない仲章で、公暁様への煽りのヒートアップぶりなど初期から安定
義村(精四郎)に対する「この猪、む、しゃ、が(ぺちん)」も忘れがたい

喜多村一朗 刀剣乱舞東鑑雪魔縁 北条時宗 (7,8月 新橋演舞場、南座、博多座)

六郎のピンチヒッターで、2ヶ月
立派なマッスル時宗でした
もっと見せ場があっても良いと思うくらい

荒五郎 御摂勧進帳 鈍藤太 (11月歌舞伎座)

節度のあるネタでお掃除とリサイクル
荒五郎のほうがボケなんでしょうね
器用な人のやるこの手の役とは違う味が出ました
途中で橋之助の婚約があったのでおめでたくしやすくなったのでは
“尉と姥"なんかいまや伝わるのか怪しいと思いますがそういうのは変えないのね

音蔵 丸橋忠弥 捕方 (12月歌舞伎座)

棒がすごかった(語彙力)
途中怪我をなさったそうですが戻られてよかった

幸蔵 源氏店 蝙蝠安 (12月歌舞伎座)

抜擢と感じさせない安でした。
今後は持ち役にしていかれるのでしょうか

以上、三十人三十役になっちゃいましたが
最後に私の十本を

2025年の十本

1月 彦山権現誓助剣(新国立劇場 中劇場)
1月 双仮名手本三升(新橋演舞場)
3月 仮名手本忠臣蔵 (歌舞伎座)
4月 木挽町のあだ討ち(歌舞伎座)
5月 弁天娘女男白浪(歌舞伎座)
7月 刀剣乱舞 東鑑雪魔縁/舞競花刀剣男士 (新橋演舞場・南座・博多座)
9月 菅原伝授手習鑑 (歌舞伎座)
9月 仮名手本忠臣蔵 二段目・九段目 (新国立劇場)
11月 泥棒と若殿 (巡業)
12月 丸橋忠弥 (歌舞伎座)

ABまで細かく選ぶとまた変わるし、通しをどこでまとめるか、大喜利所作事と本編を分けるかどうかも困るし、区切りが悩ましく、がばっといきました。

実は8本まで選んで、最後の2本で迷いました。
迷ったのは
絵本太功記

土屋主税
稚魚の会 引窓
義経千本桜
10月御園座のどれか(そのどれかが選べない)

年間通して、そろそろやっておかねばなるまい的な視点で選ばれた演目が目立ったし、またそういうものが面白かったという気もします。

2026年も面白いものが見られるといいな。

 

 

 

 

 

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Posted by kikuyamaru