「とうかぶ」がシネマ歌舞伎になったのだ

2024年4月30日歌舞伎

とうかぶさんが1周年を待たずにシネマ歌舞伎になったということで観に行きました。

とうかぶ自体について

2023年7月に新橋演舞場で上演された新作歌舞伎 刀剣乱舞 月刀剣縁桐。原案はゲームの刀剣乱舞ONLINE。
数多の刀剣男士の中から歌舞伎にゆかりの刀や一部(約1名)役者合わせで選ばれた六振りと松永久秀親子を絡めて歌舞伎に仕立てたもの。
脚本は松岡亮。演出は尾上菊之丞、尾上松也。
あらすじおよびタイトルの読み方等は公式サイトをご覧ください。 https://kabuki-toukenranbu.jp/
はっきり略称はこれだよって統一されなかったんで、たぶん定着している「とうかぶ」をここでは使ってます。
筋の通った一本の歌舞伎を古典の手法で新たに作ってみようとしたという点では近頃の新作でも出色の出来だったと思う。
劇場で4回観た…はず(人は忘れる生き物)。
千穐楽は結局配信で観ました。
観劇時の私の感想はこのへん。(なおネタバレしかありません)

もうひとつのこぼれ種 新橋に開く双葉 ~刀剣乱舞歌舞伎を観てきました~ | きくやま(仮)(再)新作歌舞伎 刀剣乱舞 月刀剣縁桐(つきのつるぎえいにしのきりのは) 新橋演舞場 2023年 7月2日(日)初日〜27日(木)千穐楽 刀剣乱舞歌舞伎を観てきました(いっかいめ) 一見...
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もうひとつのこぼれ種 新橋に開く双葉 ~刀剣乱舞歌舞伎を観てきました~ | きくやま(仮)(再)

あと、これ。

刀剣乱舞歌舞伎 もうひとかぶ | きくやま(仮)(再)4回見ました 3回の筈だったんだが 千穐楽の配信は迷っている 同じくらい劇場で見たFFの映像はいずれ必ず見ようと思ってるのに こちらはなんだか上書きされたくないような気持ちがある ...
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刀剣乱舞歌舞伎 もうひとかぶ | きくやま(仮)(再)

作品自体の感想についてはそちらにゆずります。

誰が好きとか話が好きとかいうより客席の周りに起こるすべての面白さを味わうために通った気がして、日が経つにつれ変わる芝居もいくらでも観たかった。

シネマ歌舞伎になったのだ

そんな思い入れあるとうかぶさんがシネマ歌舞伎になったので、観にいきました。とりあえず一週め。ランダム特典は三日月宗近と膝丸が当たった。毎週グッズが変わるよ。
公式情報はこちら。
シネマ歌舞伎 刀剣乱舞 月刀剣縁桐 https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/2477/
2024.4.5 ~上映(3週間予定)

従来はスタジオ歌舞伎的なシネマオリジナルの作品もありますがそれとは違って、
舞台をなるべくそのまま、でも意図はより伝わるようにした感じです。
歌舞伎ってどんなものなんだろう?と思ってる方に、2200円でお試しどうすか?と勧めてもさほど誤解は招かないようになってると思います。
普通歌舞伎のDVDや中継にはこんなに拍手入ってない。
でもこのシネマには、ツケがあって、見得があって、ここで拍手くるよねってところにわーっと拍手がくる。大向こうもかかる。
劇場に来たらこんな感じだよっていうのも含めてパッケージしてある。
そこに、歌舞伎そのものがいいはず、と思って作った演目の姿勢と同じものを感じます。
最初にいちばんいい拍手と上手な大向こうをインプットしておくのいいかもね。
(まず必要な心得はツケと見得と拍手と大向こうよな、みたいなのはここんとこの流行りな気がします。そのへん、コロナ禍の時の無観客配信での何か違うという送り手側の経験が微妙に影響をあたえてないだろうかとおもったり。
何年か後の再上映時に、ああこのころは拍手入れる作りだったよねーとか思うかもしれん)
新作だし音楽が現代っぽいのが混じるなとか
一部だけ古めかしいなとか、
それはもう感じたままでアタリです。
ということで2200円でおためしどうすか。

以下ネタバレあります。キャラのはなしはそんなにないです。たぶん。
不安な方はスペース空けがてら関係あるような雑談をしてる間に引き返すんだ。

初の歌舞伎をこれにしようかという方は、イヤホンガイドアプリ(そんな上映直前に言われても知らなかったよってタイミングであらかじめダウンロードが必要ですって知る解説アプリ)を事前に(事前に)ご用意いただくのも吉。
女性が袖を相手の肩に掛けるのは愛情表現です。これひとつ覚えただけで踊りの見方が変わるもの。もしかしたらいつか来る他の歌舞伎を見る日にも効くかも。
シネマが始まる前に、イヤホンガイドアプリをつけてねのご案内がスクリーンに出るので、その音に反応して作動するらしい不思議仕様。(よくわからない)
アプリ起動、マイクもオンにしてイヤホンして、電源はオンのままカバンにしまう。
できる気がしなぃ…大丈夫。練習用の動画がサイトにあるよ。
イヤホンガイドアプリ公式サイトはこちら https://www.cinemakabukit-app.com/
(なお、歌舞伎の本公演では専用のイヤホンガイド貸し出しがありますのでこのアプリは不要)

では本題。
演舞場で見たときよりいいなとか、逆にやっぱり舞台の方がいいなとか思ったことなどを徒然に。
なおとうらぶ全く知らないので全部歌舞伎目線です。

シネマ歌舞伎とうかぶを見て

阿弖流爲のときのような、映像の揺らしやぼかしのエフェクトがないのにまずほっとしました。
刀を合わせる音の後入れもなし。
良い。歌舞伎を歌舞伎のまま見たかった作品に、特殊効果を入れられたらシネマ不信に陥ったと思う。
阿弖流爲の頃はそのまま伝えるのが怖かったのかもなー。とうかぶは伝わる方に賭けてるんだね。

映像なんだよな…っていうのは、小鍛冶のあたりですでに感じました。
三条宗近と弟子達の、槌を打つ手のひとつひとつがよくわかる。なぜならでかいから。
ツケはあり。あと、拍手や大向こうの音も入っている。あったりなかったりは多少調整されてると思われます。
拍手を聴きながら「手はお膝」するのはつらいね。もうしみついてるのでうずうずする。

休憩

休憩は元の舞台の前半終了後のタイミングにありますが、時間は映画館によって違うんですって
上映時間が映画館ごとに違うので長いところは休憩が長いのかもしれない
私が見た映画館では10分以上ありました

カットある?

あからさまに一場カットみたいなのはなかったと思う
(ワンピのときは、え、全然短い…ってなった覚えがある)
立ち回りの導入をカットとか前説カットはありました
まあしょうがないねー

音質音量

音は圧倒的に明瞭。
音の大小は実際の印象とは異なります。
衣擦れの音は大きくなっているし、鳴物とツケは抑えているかも。
2館行ったうちひとつは音量が相当デカかったので、そこに普段の音量比でツケが入ったらけたたましくて耳しんじゃうと思う。
黒御簾の鳴物は、音楽は聞こえるけど御殿のチーンがりがりって言うオルゴールと時計(ラチェット)の音とかは小さい。
柝(き=拍子木)もちょっとだけ鳴ります。
マイクありとマイクなしの音声レベルはならしてあると思われる。
梅玉さんの声でよくわかりますが、劇場の肉声では聞こえづらい周波数まで拾われていてこんな深い太い声だったのかと感動がありました。
あと、歌詞が無理なく聴き取れる。
紅梅姫の踊りの所の歌全部聴き取れたの初めてかも。
刀の始まりの踊りの所でも「干将・莫耶が」の後、何叫んでますか?って思ってたのが「雌雄のつるぎ」とちゃんと聴こえて、喜ぶなど。
現場だと割とかき消されて音としては聞こえるが言葉として聞こえない状態が多いので、わかるのはありがたい。
それと新橋演舞場で録音のBGMを流した時の独特の割れた感じがない。劇場もこのくらい聴きやすいといいのに。
(でも小狐丸の近侍曲なんかはそれで迫力が出てたような気がしなくもない)

印象どおりだったこと

宴の兄妹の踊り〜刀剣の踊りは舞台で注目した所をそのまま見られた感じです。私は。
大ちゃん(鷹之資 as 同田貫)がしっかり見られて満足。

源氏兄弟シンクロ御注進も良い感じだった。
ここは何度でも見たかった所。
御注進が来ちゃうこと自体がやってくれるじゃんって思わせるし、その御注進が二人で連れ舞いして最後はのしのし帰っていくの新しい。

禍(わざわい)との闘いフラメンコから宗近送り出しの辺りも見たときの印象とあまり変わらず。
全景が見えると舞台の印象が甦ります。
ただ、映画では黒幕に黒いものはより見えづらくなりますね。
たぬたぬをたびたび見失うw
わざわいの鎌倉権五郎のようないでたちも見えづらくてちょっと残念だ。

見えてよかった

おじじ、おばばの仕込み杖
わかるように見えるかな?どうだろうと思ってたが、見えた。
あの為にしか使わないのにわざわざ刀を仕込んでるのを皆様にも観ていただきたく。

寄りで再確認

松永さんちの紋

抱き柏だよなあ
これは肉眼だと花道近くでしか見えなかった
(弾正様の衣装や刀の鞘も立派だったなあ)
でもなんで抱き柏かわからなくて
松也さんの抱き若松かな?っても思ったけど
寄りの映像でじっくりみたらやっぱり抱き柏だわ
なんで?

六振りの刀

現場では反りの違う同田貫(下段右)と、一番上にあるに違いない三日月しかわからなかったけど
映画だと小烏丸の両刃の鋒がわかった
上から二段目右側
すると左が小狐丸だろうな
残る下段左と真ん中が源氏のふた振り
どっちがどっちかはわからん
わかる人にはわかるんだろうね
(今日、アクスタ受注生産の報が入ってきました。それでじっくり見られますね。)

寄りの顔

パンフにも書いてある「刀」を斬っている所の三日月の表情

わざわざ寄りやがってますねw
刀を斬っている所がどこかは映像で探してください

上様傍若無人のお振舞いのときの朝顔ちゃんの表情

八幡様の境内で酒宴を始めてしまう上様の様々な酷い言動をアップにすると
背後の腰元さんもよく見える
朝顔ちゃん(薄緑の子)が無反応ながら心を痛めている様子
あまり顕な存在感を示してはいけない歌舞伎の腰元ですが、ああ、この子もつらいだろうなあっていう微妙な顔してます

久直決意

「宗近殿」に、親に謀反を勧めろという普通に考えて不忠不孝極まりないことを言われた(わけじゃないのだが)久直は思い悩み、
額の傷を押さえた指を見て…というあたりをシネマでは大写しにしています。
現場で見ても何か気持ちが変わったなとわかる所ではあった
これが、ヨシ、じゃなくて、スッと無になるんだよね。
この辺の肚は大ちゃんに聞いてみたい。
一方で一刻の猶予もないと久直に伝えて見送った後
微妙な面持ちの宗近のバックに音を自在に転がすような二十五絃筝の調べが流れます。
時が近づいている。三日月さんのほうが心を乱しているように見える

義輝と宗近の最後の立ち回りは

双眼鏡でガン見して、一階でも二階でも観たので割とシネマに近いビジョンでした
高さのある岩場での立ち回り(しかも回る)で、客席では上からも下からも同時には無理なので、それを両方見られるのはシネマの良い所です
それと確かにそっちからの角度は見えないなーって所はあった。カメラはずるいなあ。
あとテンポこんなに速かったっけってのが記憶との違い

両手を広げ凛として義輝を追い詰めていた宗近が、仕留めた後に弱さを晒し、義輝は赦している。この力関係の逆転がいとおしい。
歌舞伎では遠くから見ても読み取れるように芝居します。
とはいえアップになれば顔もちゃんと切ないです
(というのをオペラグラスを上げ下げしなくても見られます)

追記:前の場面では正面向きの横長の階段だったものが、回すことで相手を追い詰める隘路となる。
岩が90度回って頂上の路が手前から奥への縦方向になったとき、最初は義輝が背中を見せてこちら側から対面にいる宗近にゆっくり向かっていく。回しながら裏の断崖を見せ、あれこれあってもう半周回ったとき、こんどは上に書いた宗近が背中を見せて義輝に向かっていく局面になっている。音とのシンクロ、回転している岩の角度を考慮した立ち回り。ほんによく作ったなあ。どうやって稽古したんだろう。(ここまで)

そういえば鬘

かつらはよく見えました。三日月の頭は写真を拡大しても全部黒でよくわからなかったのが、長い前髪をヘアバンドで上げて後ろに流してるのね。前髪のギザギザ感を後ろに持ってきて、前から見れば歌舞伎らしく、問われたら実は前髪存在してますと言える髪型。考えたな。

時間差で色々気付いたり

おお、割った

今月(4月)歌舞伎座で夏祭浪花鑑が掛かっております。
団七九郎兵衛が舅に執拗に雪駄で打たれ額が割られる所があります。(これは上方と江戸で構図が違うらしい)
とうかぶの次の日に歌舞伎座行ったんで、ああ雲居姫の打擲のやりとりの本歌はここにもあるじゃないかと今更気付きました。
ということだから、ご興味のある方は歌舞伎座へ。
愛之助の団七九郎兵衛、江戸ではなかなか見られません。そして、これじゃん、ってなるよ。

「室咲きの」

義輝様が病のときに久直が出仕するところで流れる黒御簾音楽の唄です。一般に御殿の場面などで流れます。温室の梅の唄ですね(身もふたもない)
ルパン歌舞伎がこういった黒御簾の唄を結構繰り返し使っていたので、調べまして。
次の月に浅草歌舞伎の十種香がやはり御殿の場面なのでこれが使われておりまして、
そしてシネマとうかぶで、あっこのあいだやったとこまた出てる!ってなった。(頻出問題)
これ、昨年の7月に新橋で見たときにはまだ気にしてなかった。
歌舞伎を見るようになって結構な年月になりますが唄で場面の種類がわかるなんてことなかったんですよ。
新作がきっかけになるとは。

あれはないのねー

押彦・武彦

幕が開く15分ほど前かな、オリジナル曲の刀剣ブルースが賑やかに響いて、舞台の前に「刀剣乱舞由来」の筆書きの字の幕が見える。
10分ほどするとそれまでロビーや客席の随所でグリーティングしていた押彦さん武彦さんが一階席に現れ通路を歩きながら会話しつつ前説をする。
本日お越しの皆様が審神者様でございます、的な。
それを終えると、静寂。しばらくして土蜘蛛の一節の唄が流れ、舞台奥には押彦武彦が既にかしこまっている。…というのが演舞場での出来事。
現実から舞台上へのすごい早いスタンバイで、さっき気さくに話してくれてたにいちゃんたちがもう物語の中に収まって改まった報告をしているっていう面白さがあったんですが、シネマでは前説はカット。由来は実写ではなく黒ベタに白抜き文字で、土蜘蛛の唄をかぶせながらになりました。
刀剣ブルース、現場で繰り返し聴いたイメージがあるので何かに使って欲しかったな。

カオス

シネマにカーテンコールがないと書いてる人がいましたが、一度幕になって各人を紹介するように一人一人が出てきてお辞儀をして緞帳が下りるまでは映してます。
現代劇をご覧の皆様はそれも芝居の一部と思ってるかもしれませんが、歌舞伎にはないものです。
まして黒御簾の中の人まで出るようなのは珍しいです。
そこからもう一度開く2回目以降の撮影可能なカオスなカーテンコールはカットでーす。
そんなわけで秩序あるままシネマとうかぶの幕は下りるのだ。

追い出しアナウンス

帰りに流れる日替わりアナウンスも聴きたいですが、ないです。もういちど兄者にいいこいいこされたかったじゃんね?

ビミョーと思ったこと

LR

これは聞こえ具合が映画館によるのですが、音の定位が割とはっきりしています。
カメラの方向が変わると音のくる方向も変わる。
印象的なのは花道の後方の揚幕の鉄輪がチャリンとなる音
客席センターで正面向いてると左後ろに揚幕がありそこで役者の出の音がするのを再現。
あと御注進の声も揚幕の内からするので左後ろになります
それは、おおお臨場感って感じですわね。
カメラが下手(舞台に向かって左)側の花道外からの眺めに切り替わると、舞台は左側、揚幕は右側になる。するとチャリンも右にいく。
上手の桟敷からの眺めに切り替わると、揚幕は左。
連続移動ではなくスイッチなのでぱっぱと切り替わる。映画観てるほうは席を移動したわけではないのに音があっちこっちにいってちょっと混乱する。
舞台を映す時も、少しカメラが左右にスイッチするとと台詞が続いてるのに音が変わって、やや集中が途切れる。
この小さな違和感は割と仕事するの。
きっとお膝元の東劇がベストなのに違いない。やってるうちに行こう。

追記:チネチッタ、二子玉、ブルク13、東劇に行きました。大きなスクリーンの方が違和感なく聞こえる気がする。チッタがいちばん自然に聞こえました。2番のスクリーンだった。次が東劇。ブルクは音がデカい。そして他所のスクリーンの音もでかいので静かなところに微かにズズーンって地鳴りのような音がして怖かった。隣なんの映画だったんだろう。二子玉は小さなスクリーンに割り当たって音がクリアな反面ボケがないための違和感があった。シネコンだとどのスクリーンか予想つかないからガチャではあるな。(追記終わり)

見えなくてよいものはよく見える

仮面やら、吹き替えやら、レンズは正直でして。
そんな中でちょっといまわかんなかったwって思ったのは、上様の病平癒ですかね。
神わざじゃない?
眉毛鉢巻とか、たぬたぬの顔の傷ってどのタイミングから直書きになるの?とかは発見として楽しめる範囲ですかね。

伝わらないかもしれん現場でのあれこれ

転換の工夫と殊更な忙しさ

シネマでは長い転換も短い転換も同じく短くなっています。
勿論生配信じゃないから長々と黒幕を見せてる必要はないのでそれで良いのですが
本当に短い時間でこなしてるのも編集で切ってるのも区別付かないですよね。
え、いま刀剣男士で髭切出てたのに、もう姫出てる⁈ ってお客さんなってくれたかなー。なってほしいー。
舞台の幕が降りて道具を変えているだろう間に花道で芝居が行われているといった同時進行の妙もカメラが切り替わってしまうのでいまいちわからない。
あと舞台上の紗幕の後ろで密かにセッティングが始まっており、ライトで一部見えた後パッと場が切り替わるとか、従来技術を駆使したマジックもよーできてたのよ。

時間遡行軍からの囲まれ具合

最後に少しカメラが上に振られて2階桟敷に小さいホネホネ(短刀らしい)がいるのが見えますが、
客席の前、通路、上階など垂直方向まで使って、さまざまな敵のおかたなやら薙刀やら(種類知らんけど)の人海戦術(刀海戦術?)で包囲されている。
椅子の横とか前とかに急に人が出てくる。近くにも遠くにも敵がいる状況。
なんなら現場でも全容は分からなかったんで、もうちょいカメラが見渡してくれると嬉しかったかも。お客さん映るからだめかな。
ここは照明が暗い中、周囲の壁に背景テクスチャー的な影が映写されています。珍しくハイテクです。

周り舞台の立体感

これも伝わりづらいな。
盆が周り三条宗近たちが奥へ消えたと思いきや三日月宗近が次第にこちらに回ってせり上がりつつ正面に来る、螺旋を思わせるダイナミックな動線。
これはシネマではよくわからなかった
さっきそこにいた松也がとうてい無理と思われるタイミングでセリから現れる、え?な驚き。どうだろう。そう見えましたかね。

あと、この歌舞伎で特徴的な、盆を丸ごと使った庭や岩山を回しながら、同時に役者も盆の上の構造物を高低にも水平にも移動する動き
これを客席から見ることで居ながらにして回り込みを味わう力わざ。
シネマでは結構普通に見えてしまったなあ
映像ではレールでカメラを移動させればいいわけだからありきたりに見えてしまうのかも

フレームの外にあるもの

いつもの中継でもあることですが、カメラが誰かに寄って抜いているときには、フレームの外の芝居は見えない
見えんけどおる

仮の御所に駆けつけた刀剣男士たち

現場では、客席に現れた膝丸、同田貫に気を取られてたら、宗近がもう舞台にいました。あれ?いつ出た?
シネマは宗近をちゃんと追っています。
そうだよね。花道から出る宗近を見るところだよね、ここ。それが現場で見た覚えがな…
千穐楽の配信では花道全景を見ていたら、まっしぐらに走る宗近の姿がありました。
いたじゃん宗近。
シネマは違うアングルで宗近を捉えています。代わりに他の子達がよく見えないのねえ。
小烏丸に至っては、こんにちまでいつどこから来たのかつかめてません。今度こそつかむ。(何回行く気だ)

出陣

謀反を決意した松永弾正が心情を語り、御覚悟よくばと出陣を促す宗近。
義太夫が二条を指してと語るときに、宗近がすっと自分の刀を抜いて花道の方向を指し示す。
この所作がともに出陣する進路を示すようで好きです。オスカルー!(ちゃう)
映画では、刀を抜きかけた所でスイッチして弾正様を一度映すので、再び引きの絵になったときにもう宗近は刀を抜いてしまっている。ほんのちょっとの差でその止めた瞬間が見えないんだよなー。

対峙

義輝の最期は、映像だと義輝が刀を地に突き立て、岩の向こうに後ろざまに落ちて、愛刀の一振りだけがアップで残り、桜の花びらが降りかかるさまをしばらく映している
宗近は、義輝が彼から離れるのと入れ替わりに、手前の段状になった岩場を駆け降りて、後ろ姿でその場に控え低い姿勢で地に手をつがえ義輝を見上げています。自分はこれを思う時、死期のきわまった主人に相対する大星力弥と重ねてしまいます。
その後ろ姿はスクリーンに映りません。残された刀の映るしばらくの時間は、残された宗近のみつめた時間でもある。
つぎにカメラが切り変わったときには立ち姿の宗近と背後の刀の双方が映る。宗近はもうこちらを向いている。
美しい構図です。この絵になる位置を探したでしょうね。

エンドロール

映画って細かい役も役割もエンドロールに載るじゃありませんか。
あれは誰だ?筋書筋書って幕間に売り場へ走らなくてもいい。よい文化です。
(筋書(or 番付)の写真はみんなずっと変えないから若いままで化粧もしてないし結局その人でよかったか確信持てない時ある)
でもエンドロールは流れてっちゃうので、ああっ、梅ナニさんだった?ぁぁぁぁ…ってはなりますね。
まつ虫くんはえらい色々やってはる。(インスタ読むと大変だったろうなってつくづく。まさかの高所恐怖症。つかアクションマンで高所ダメな人結構いるよね。とんぼは返れるのに。)
あと"尾上菊五郎劇団音楽部鳴物"の文字に、じんとしました。
もう菊五郎劇団の文字を正式に見るのはこういう所くらいではないかな。

やはりもう一度

シネマになったからにはDVDかBDは期待できる
サントラも二曲は出てるし望みある
でも他の劇場で再演しないかなあ。
筋やキャラクター、音楽は変わらないからシネマだって当然ながら面白いんだけど、
やっぱ、立体を見てほしいって、改めて思いました。
水や宙乗りの使えない劇場でもできるので。
あ、ちょっとデカい岩とか要りますけど、筝も台に三面ほど載せないとアレですけど。

再演、お待ちしております。

歌舞伎

Posted by kikuyamaru