42年後の才蔵お国にまみえること。(名作の舞台裏「風神の門」)

2022年11月27日時代劇,風神の門

11/5 名作の舞台裏「風神の門」
情文ホール(横浜情報文化センター6階)

放送人の会による放送ライブラリーのイベント、「名作の舞台裏」。第52回だそうで、もう20年くらいになる催しです。
取り上げる作品は「風神の門」(1980)。やっときたー。というか、今になってよくこれにスポットが当たったなあという感じ。

風神の門
1980/4/9-10/1
NHK 総合 20:00- 全23回
水曜日の時代劇枠での放送作品
当時は何曜日かに昼間の再放送もありました。
あらすじとイベントのあらましはこちら。
https://www.bpcj.or.jp/event/blog/2022/09/post20220916.html

名作の舞台裏のイベントには何回か参加したことがありますが贔屓作品にどんぴしゃは2回目。前のヒットは黄金の日日で、調べたら2012年でした。え、10年前なの?ひぃぃ。
そのときと同じ渡辺紘史さんが今回も司会。
ゲストは脚本の金子成人さん、キャストの三浦浩一さん、小野みゆきさんで、かなりの俺得布陣。

見た感じ満席でしたが
客層はまあまあ高い年齢層。招待席がかなり多かったです。当時制作に関わった方もおられた様子。
トーク中に当時見ていた人に挙手してもらったら目視で三分の一くらいでしたかね。
見てないけど来た人ってどんな興味で来てたのかな。私の席の周りでは右はガチの人(トークの中で映像が映ったとき思わず次のセリフをもらしていて、いや、気持ちはわかる…という感じ)、後ろは会話から推測するに作品を知らない人、左は招待席でこの作品目当てではないけど彼(渡辺さんかな)がやるというので来たという方。
当時の視聴者で見たかった人に情報が回っていたらいいのだけど。
最後の質問コーナーでは中高生の頃に見ていたという方が指名されていて、ここでは私は若いほうみたいでした。そっかぁ。

まず3話と6話(ちょい編集して90分)の上映。
お国の身の上と才蔵が幸村を狙って九度山に入るまでの話。
この作品、才蔵が幸村に会うまでが結構長いのですが、
あらすじを語る6話冒頭ナレーションが素晴らしい。
そこまでの5回見なくてもだいたいわかる。
あと、大根にかじりつく才蔵とか、"みそぎ"とか。
才蔵と佐助の、それだけの修行をあるじに仕えるためにしたのか?己のためではないのか?という問答も当時印象に残ったものでした。

上映の後の休み時間に後列の客席の方々の会話で、登場人物について、ほらあの人名前なんだっけのまま会話が続いており、寺田農、寺田農だからっ!と言いたいのをぐっとこらえたり、
“踊子"の歌手の三浦洸一さんの話になってるのを、いや違うミウラコウイチだからっ!の突っ込みをこらえたり、なかなか苦しかったです。

休憩のあとは、ゲストが入場してトーク。
ゲスト(敬称略)
霧隠才蔵役 三浦浩一
お国役 小野みゆき
脚本 金子成人
司会 渡辺紘史

三浦さんはスーツ。
小野さんは髪がショートカットでグレーになっていましたが目ヂカラが健在すぎ。

司会の渡辺さんは風神の門の演出に関わられており、キャスティング時の思い出などからお話が始まりました。
三浦さんは、候補が何人かいた段階で、当時の所属である東京キッドブラザースの稽古場にNHKの方が見に行ってから主演に決まったそうです。
一方で小野さんは、最初から若駒(殺陣担当)の道場の板の間で端から端まで前転とか、所作の稽古とかだったそうで、いつ決まったのかわからない様子。
経験も少ない2人が、周りを固める実力派俳優さん達に支えられて出来上がっていった作品だったということでしょうね。
知らなかったんですが、6話に出てきた耳次夫婦は東京キッドブラザースの先輩だったそうです。(酷い伏線だったのよねー、あの夫婦。)

制作は若いスタッフ達にキャスティング含め色々任されていた現場だったそうです。アイディアを出し合う合宿の中で、金子さんはぱっと消えるような忍術はやめようと言ったのを記憶していると仰ってました。
(いや、割とぱっと消えてますけどね、獅子とか才蔵。)
土遁の術(土や落ち葉をかけられて寝てる)は怖かったと三浦さん。

主題歌も渡辺さん達が福岡にクリスタルキングを聴きに行って決めたそうです
この"時間差"はレコードもCDも出てないと思うので、どうにかして世に出てほしいなあ。2番3番の歌詞もストーリーと重ねると感慨がある。
お前と俺は才蔵か佐助か獅子王院か。
お話によると当時のNHKではマルチチャンネルでの録音は珍しかったみたい。
その辺も聴き比べたい。水金の時代劇の音盤出ませんかね。定期的にCDの出る大河ドラマに比べると埋もれた名曲だらけだと思いますよ。

キャラクター造形について。
(時代と役どころの説明をしておくと、ときは関ヶ原の合戦の後。大阪の陣の前。
才蔵は独立独歩の伊賀者で、誰にも仕えないと豪語し、徳川でも大坂でも自分の技を高く買ってくれる方へと売り込みをしています。
はじめ真田幸村を狙いますが人柄に触れて以下略。しかし天下は以下略。
その幸村に仕える甲賀者のリーダーが佐助。幸村への忠義を貫く真面目な男。
お国はさる大名の娘ですが甲賀者に育てられ現在は素性を隠して大坂がたの隠岐殿(大野修理の妹で大坂の抱える浪人を取りまとめている女性)に侍女として仕えています。その関係で才蔵が江戸につけば敵として彼を陥れ、大坂につけば味方となる。しかし本当の任務は以下略。心に重いものを抱えているためか、表情はいつも翳っています。
獅子王院は徳川方のさる大名の配下の忍びのリーダー格であり、顔は白塗りで短い着物のビジュアルが異様。ただし家柄は低く、飢えを知り、人に仕えることを知る男。伊賀者の中でも良い家柄の才蔵にはライバル心を燃やしています。任務には非情。自らの術だけでなく金で人心を動かすことや集団を使うことにも長けており、佐助や才蔵の仲間たちも獅子王院に殆どが倒されています。
しかし公家の菊亭大納言の姫である青子の警護に携わるうちに彼の運命は以下略。)

才蔵はバカ、と金子さん。
この場合のバカは頭が悪いという意味ではないでしょうね。天真爛漫な自分中心の、あまり鬱屈した所のないぱーっとしたニュアンスのことでしょう。
原作では登場する女性にどんどん手を出してゆく役柄ですが、金子さんはそれでは嫌悪感を持たれるのではというおそれから、キャラクターを変えたそうです。
“純愛でよかった"と三浦さん。
お国は裏切ってばかりなのでつらかったと小野さん。
渡辺さんによれば、当時はネットもない時代なので、中高生から多く手紙が来て、クラスで才蔵お国派と獅子王院青子派に分かれているなど書いてあったと。さもありなん。
獅子王院は一途なところに人気があった様子。
(獅子王院はまあ、別な意味でバカですよね。自分で破滅に向かって行って。)
始まってから広がったキャラとしては、主馬(青子の家の使用人)が挙がっていました。冷泉さんの雰囲気が独特ですもんね。(一部の方に伝わるように言うとフクシン君のひとです)

初対面となる湯殿でのシーンを少し流してのトーク。
ロケは神奈川が多かったそう。
“生田にオープンセットがあって"
それはわかるとして、
昭和55年にはあの街道が神奈川で撮れたのですね。大根畑だってそうです。特撮ものなら電線とかがあってもいいでしょうけど時代劇の場合は困りますから、その頃はあんな引きの絵で時代劇が撮れる所があったのかと、平成以降の神奈川しか知らない私には驚きでした。

撮影現場では、三浦さんは共演者と話した記憶がないそうです。
小野さんも磯部勉さん(獅子王院役)とは喋ったけど三浦さんとはあまり喋らなかったそうですが、
その辺が、湯殿での出会いのシーンのぎこちなさに現れていてよかったのかもと一同。
小野さんは段取りで精一杯で、全裸才蔵のことも覚えてないし、出口じゃない壁に突進していって、小野みゆきなにやってる!と怒られたりしたそうです。
まあ、なんか、必死な感じはします。

小野さんによると磯部さんの素(す)は、"おじさん、はだかのおんなのひとがはしっていくよ"という食い逃げのおまじない(これについては脚注に書いておきます。)を聴いた時の獅子王院そのままだそう。
は?という顔なんですが獅子王院がそんな顔をすること自体が意外で面白いシーンでした。
あれは磯部さんの顔だったのねん。

ラストの旅立ちのシーンも映写がありました。
獅子と青子の別れに小野さんは涙を拭っていました。このイベントの前に全話見てきたそうです。その物語を見て来たものだけにわかる涙です。
三浦さんからあの2人にはかなわないとの言葉。金子さんは破局に向かっていくように書いていったそうです。
一方でお国、才蔵は希望ある旅立ちとなります。
お国としてはまだ、お方さまとの別れなどのつらい気持ちを引きずったままだったそうで、明るいラストを演じるのに難しいところがあったようです。
それを物陰から羨むように(と、私には見えるのだが)眺め、去っていく獅子王院。
渡辺さんから、獅子王院はもう他人に仕えるような生き方はしないだろうけれど、一皮剥けて、猟師なりなんらかのすべで生きていくだろうといったお話がありました。テレビから四十年余りが経った現在、物語の中でそれと同じだけの時間がたった頃のことを書いてみないかと渡辺さんから金子さんへの提案も。
獅子王院がどうしているかは見てみたいと一同。
会場からは拍手。

いや、同窓会としては見てみたい。拍手。
けど、普通の人情時代劇なら要らないかなあ。
彼らが再び動けるような舞台で、しかも四十年後。何をしてくれるんだろう。大火絡みかなあ。
何を見ても違うと思ってしまうかもしれない。
“ゆくえは誰も知らない"でいいことだってあるじゃない?
ま、本当に実現しちゃったら見ますけどね。

会場からのQAでは、風雲真田幸村での才蔵について尋ねられて、三浦さんが才蔵役は誰にも渡したくないという思いについて語っていました。
あの頃、再び三浦浩一の霧隠才蔵が見られることは本当に嬉しかったなあ。似て非なるものではあっても、誰かが風神の門にリスペクトを寄せながらキャスティングしてくれたんだと思うし。自分達にとっても三浦さんは不動の才蔵役者になりました。

というところで、レポはおしまい。
こんないいイベントは本当に見たい人の所に是非届いてほしいものです。
なにしろ事前抽選なので、もし知ってたら応募できたのに間に合わなかったという人もいたんじゃないかな。
もったいないですね。そろそろ配信なんかも考えてみてはどうでしょうか。

********
“おじさんはだかのおんなのひとがはしっていくよ" の話。
青子(公家のお姫様)が、遊女である梅ヶ枝とちょっとした道中のさなか、所持金がなく茶屋で食い逃げをする事となります。そのとき梅ヶ枝は見てはいけないものを見たかのように片手で自分の目もとを隠しながら「おじさん、裸の女の人が走っていくよ!」と口走り、茶屋のあるじが気を取られた隙に青子と2人で逃亡。これがまんまと成功。
のちに、獅子王院と青子が旅をする際に、青子は食い逃げを提案します。無事に逃げられるおまじないとして「おじさんはだかのおんなのひとがはしっていくよ」を教えてくれるのですが、まさかの事態に獅子王院はきょとんとした表情を見せます。これが素というか、普段なら絶対見せない気の抜けた顔でなんとも言えない。
仕方なく獅子王院はいまから食い逃げのふりをするからと茶屋にあらかじめ金を渡しておき、青子のおまじないで2人は無事に食い逃げ(のふり)を実行。青子満足、茶屋も満足。獅子、偉いわ。
でもこの話ここでは終わらないのです。
ひとりになって、獅子王院はぽつりと口にします
「おじさんはだかのおんなのひとがはしっていくよ」
それは無事に逃げおおせるおまじない。
…でもそうできない所が獅子王院なんだよねー。

2022.11.27追記
いま、「風雲!真田幸村」を時代劇専門チャンネルで放送しております。16話に磯部勉氏がゲストで出ています。
うわー。真田幸村って言ったー。声、声。(喜びすぎ)
というわけなので16話再放送の機会があればご覧ください。
ちょっとそれっぽいリスペクトを感じなくもない役どころです。
どうでもいいけど、麻里亜さんどこへでも付いて来すぎ。